「翼をさずける〜」のキャッチフレーズでおなじみのレッドブルは、2024年には世界中で126億7000万缶を販売し、売上高は112億ユーロ(約1兆8000億円)に達したエナジードリンクの世界的リーダーです。
しかし、驚くべきことにレッドブルは「飲料メーカー」ではなく「マーケティング会社」と言われています。自社工場を持たず、製造・物流は全て外部に委託。売上の約30%をマーケティングに投資するという、業界でも異例の戦略を取っています(マクドナルドでさえ約1%程度)。
この記事では、レッドブルが実践してきた革新的なマーケティング戦略を7つの事例と共に詳しく解説します。特に「ゴミ箱マーケティング」として知られるゲリラ戦略は、中小企業でも応用できる秘訣が詰まっています。
この記事でわかること
・レッドブルの「ゴミ箱ゲリラマーケティング」の全貌
・なぜF1に年間170億円も投資するのか?その驚くべきROI
・2024年最新のAI・サステナビリティ戦略
・日本市場での展開事例(Red Bull Flight Day 2024など)
・自社ビジネスに応用できるポイント

レッドブルのマーケティング事例で最も有名なのが、ロンドンでの「ゴミ箱キャンペーン」です。
1990年代、レッドブルがイギリス市場に進出した際、大きな課題がありました。当時のイギリスでは「エナジードリンク」という概念自体が存在していなかったのです。
テレビCMや新聞広告で「エナジードリンクです!」と宣伝しても、消費者には伝わりません。そこでレッドブルが取った戦略は、「すでに人気がある」という錯覚を作り出すことでした。
レッドブルのスタッフは以下のゲリラ戦術を実行しました:
1. 透明なゴミ箱への空き缶投入
ロンドン市内の駅や広場にある透明なゴミ箱に、レッドブルの空き缶を大量に投入。当時のゴミ箱は中身が見える仕様だったため、「こんなに飲まれている!」という印象を与えました。
2. クラブ周辺への缶放置
人気クラブの入口付近に、あえて空き缶を「無造作に」放置。「パーティーピープルが飲んでいる」イメージを演出しました。
3. DJへの無料サンプル配布
影響力のあるDJに無料でレッドブルを提供。彼らがブースで飲む姿が、トレンドセッターとしての効果を発揮しました。
この戦略が成功した理由は、「社会的証明(ソーシャルプルーフ)」という心理効果を巧みに利用したからです。
人は「他の人が選んでいるもの」を信頼する傾向があります。ゴミ箱いっぱいの空き缶を見た人は:
- 「え、何これ?そんなに人気なの?」と興味を持つ
- 「みんなが飲んでいるなら試してみたい」と購買意欲が高まる
- 「知らないのは自分だけ?」とFOMO(取り残される恐怖)を感じる
高額な広告費をかけずに、認知から興味・購買意欲まで一気に引き上げた画期的な事例です。
【harukaのコメント】
私がこの事例を知った時、「これってSNS時代の今でも使えるな」と思いました。例えば、自社商品を持っている方なら「使用シーン」を自然に見せる投稿を増やすことで、同じ心理効果を狙えます。重要なのは、押し売り感を出さないこと。レッドブルは「広告」ではなく「日常の風景」として商品を見せたからこそ成功したのです。

2012年10月14日、レッドブルは史上最も壮大なマーケティングイベントを実行しました。
オーストリア人スカイダイバーのフェリックス・バウムガルトナー氏が、高度39,045メートル(成層圏)から地球へダイブするという前代未聞のチャレンジでした。
達成した記録
・最高高度からのスカイダイビング:39,045m
・最速自由落下速度:時速1,357.6km(音速超え)
・最長自由落下時間:4分19秒
・YouTube同時視聴者数:800万人(当時世界記録)
このプロジェクトは、単なる「派手なスタント」ではありませんでした:
- 全世界で推定8億人がライブまたはニュースで視聴
- SNSでの言及数は爆発的に増加
- 「限界に挑戦する」というブランドイメージを完全に体現
- イベント後、アメリカでの売上が7%増加
創業者ディートリッヒ・マテシッツ氏は「レッドブルは単なる飲料ではなく、エキサイティングな体験であり、スリルや冒険である」と語っています。このプロジェクトは、その哲学を世界に示した象徴的な事例でした。

レッドブルはF1に2チーム(レッドブル・レーシングとRB)を保有しています。一見すると「お金の無駄遣い」に見えるこの投資には、驚くべきROIがあります。
年間投資額:約1億5千万ドル(約170億円)
直接利益:約1千万ドル(約11億円)
→ 収益だけ見ると赤字に見えますが…
F1シーズン中、レッドブルが得るブランド露出価値は年間約3億2千万ドル(約363億円)と推計されています。
- F1の年間視聴者数は約20億人
- レース中、車体のロゴは常にテレビに映り続ける
- マックス・フェルスタッペン選手の活躍で、さらに露出が増加
2024年、レッドブルのF1参戦がエナジードリンク3億2000万缶の売上に貢献したと報告されています。
オラクル・レッドブル・レーシングは、世界的なスポンサーを獲得しています:
- Oracle:5年間で3億ドル(約340億円)のメガスポンサー契約
- Honda、Bybit、Tag Heuerなど、一流ブランドが並ぶ
【harukaのコメント】
「170億円投資して11億円しか戻ってこないなら赤字じゃないか」と思った方、それはP/L(損益計算書)だけで見た場合の話です。レッドブルが見ているのは「ブランド資産価値」。F1で培ったイメージは、スーパーの棚でモンスターエナジーと並んだ時に消費者の選択に影響します。これを「アクション・スポーツへの投資」と捉えるか「広告費」と捉えるかで、見え方は全く変わりますね。
レッドブルは2007年、Red Bull Media Houseという自社メディア企業を設立しました。これがコンテンツマーケティングの観点から革命的でした。
Red Bull Media Houseの事業
・映画・ドキュメンタリー制作
・音楽レーベル運営
・雑誌「The Red Bulletin」発行
・TV番組制作
・デジタルコンテンツ配信
2024年の売上:100億ドル(約1.1兆円)突破
YouTubeチャンネル「Red Bull」の登録者数は1,400万人以上。エクストリームスポーツ、音楽、カルチャーに関する高品質な動画を毎日配信しています。
レッドブルのコンテンツには、ほとんど商品プロモーションが含まれていません。
動画の中で「レッドブルを飲もう!」と言うシーンはありません。代わりに:
- 世界最高峰のアスリートの挑戦を追う
- 息をのむような映像美で冒険を伝える
- 「限界を超える」というブランド哲学を体現する
視聴者は「レッドブル=挑戦・冒険・エネルギー」というイメージを自然に抱くようになります。
レッドブルのマーケティングは、テクノロジーと社会的価値観の変化に合わせて進化し続けています。
2024年以降、レッドブルはAIを活用したパーソナライズドコンテンツ配信を強化しています。
- 視聴者の好みに合わせた動画をAIが自動提案
- 効果は従来比25%向上(McKinsey, 2025)
- VR/ARを活用した仮想イベント体験の提供
Z世代を中心に、80%の若者が環境に配慮したブランドを支持するというデータがあります(HubSpot, 2024)。
レッドブルの対応:
- 缶のリサイクルプログラムの推進
- カーボンニュートラルなイベントの開催
- 環境に配慮した製造プロセスへの移行
eスポーツ市場の急成長に伴い、レッドブルはゲーマー向けのキャンペーンを積極展開:
- プロゲーマーとのスポンサー契約
- eスポーツ大会の主催・協賛
- ゲーミングコンテンツの制作
エクストリームスポーツで培った「挑戦者を応援する」というブランドイメージは、eスポーツの世界でも効果を発揮しています。
レッドブル・ジャパンは、日本独自のマーケティング施策も展開しています。
2024年5月26日、神戸ハーバーランドで9年ぶりに「Red Bull Flight Day」が開催されました。
これは参加者が自作の飛行機で「どこまで飛べるか」を競うユニークなイベントで、世界中で大人気のショー型コンテストです。
2024年、ファミリーマートとのコラボキャンペーンを展開:
- 店舗で「Red Bull Music Sessions」を開催
- ミニライブやDJイベントで若者を集客
- コンビニという日常的な接点でブランド体験を提供
調査によると、日本の消費者の75%がブランドの「クールなイメージ」を理由にレッドブルを購入しているとのこと(HubSpot, 2024)。
日本では特に若者やサブカルチャー層に支持されており、「エナジードリンク=疲労回復」という従来のイメージを「エナジードリンク=チャレンジ・自己表現」に変えることに成功しています。

レッドブルは、将来の顧客である学生をターゲットとしたマーケティングにも力を入れています。
レッドブルは世界中の大学で「Student Marketeer」と呼ばれる学生アンバサダーを採用しています。
- キャンパス内でのサンプリング活動
- 学内イベントの企画・運営
- SNSでの情報発信
「同世代からの推薦」という形でブランドを広げる戦略は、広告よりも信頼性が高く、効果的です。
レッドブルは「まず飲んでもらう」ことを重視しています。
- イベント会場での無料配布
- スポーツジムやフィットネス施設でのサンプリング
- 試験期間中の大学図書館前での配布
「百聞は一飲にしかず」。体験させることで、商品の価値を直接伝えています。
レッドブルの戦略は「年間売上の30%をマーケティングに投資」という大企業だからこそできる面もあります。しかし、考え方自体は中小企業でも応用可能です。
ゴミ箱マーケティングの本質は「すでに人気がある」と思わせること。
応用例
・お客様の声・レビューを積極的に集めて公開する
・SNSで「使用シーン」を自然に見せる投稿を増やす
・導入実績・累計販売数を目立つ場所に表示する
・メディア掲載実績があれば「〇〇で紹介されました」と表示
レッドブルの動画には「買ってください」がありません。代わりに価値ある体験を提供しています。
応用例
・業界のノウハウを惜しみなく発信するブログ
・お客様の成功事例をストーリーとして紹介
・商品の「使い方」ではなく「その先の体験」を見せる
・ターゲット層が「見たい」と思うコンテンツを作る
レッドブルは「限界に挑戦する」という一貫した哲学があります。これが全てのマーケティング活動の軸になっています。
応用例
・「なぜこの事業をやっているのか」を言語化する
・全ての発信がその哲学に沿っているかチェックする
・社員・スタッフにも哲学を浸透させる
・哲学に共感する顧客を集める
【harukaのコメント】
私がレッドブルの戦略で最も参考にしているのは「体験を売る」という考え方です。IT Pocketでも、単に「ツールの使い方」を教えるのではなく、「そのツールを使うことで実現できる未来」を見せることを意識しています。商品・サービスの機能ではなく、それによって得られる「変化」にフォーカスすることが重要ですね。
レッドブルのマーケティング戦略を振り返ると、共通するのは「商品を売るのではなく、体験・ストーリーを売る」という哲学です。
レッドブルのマーケティング戦略まとめ
1. ゴミ箱ゲリラマーケティング:社会的証明で「人気がある」と錯覚させる
2. ストラトスプロジェクト:「限界に挑戦」を世界に示す
3. F1参戦:ブランド露出価値363億円/年のROI
4. コンテンツマーケティング:商品を売らずにファンを作る
5. AI・サステナビリティ:時代に合わせた進化
6. 日本独自施策:Flight Day、ファミマコラボなど
7. 学生マーケティング:将来の顧客を育てる
年間売上112億ユーロ(約1.8兆円)、126億缶を販売するレッドブルですが、その成功の本質は「商品の機能」ではなく「ブランドが象徴する価値観」で選ばれているという点にあります。
あなたのビジネスでも、「何を売るか」だけでなく「どんな体験・価値観を提供するか」を考えてみてください。レッドブルのように、商品を超えたブランド価値を構築することが、長期的な成功への近道です。
Red Bull 公式サイト:https://www.redbull.com/jp-ja/energydrink/kaisha
Red Bull Stratos:https://www.redbull.com/int-en/projects/red-bull-stratos
Red Bull Media House:https://www.redbullmediahouse.com/ja
Smith Brothers Media – Red Bull Rubbish Bins Case Study:https://smithbrothersmedia.com.au/
Red Bull Flight Day:https://www.redbull.com/jp-ja/events/red-bull-flight-day
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